太陽活動の気候影響

名古屋大学の宇宙地球環境研究所の融合研究の紹介

太陽活動の変動が気象や気候に影響を与えるのでしょうか。天文学、太陽物理学、気象学、気候学、古気候学、海洋学などを専門とする研究者が、過去200年以上に亘り考えてきたテーマです。2000年前、中国の宮廷天文学者たちは、太陽活動の変動を調べるため、太陽黒点の様子を史書に記録しました。1801年、ウィリアム・ハーシェルは、太陽黒点の出現数とロンドンの小麦の市場価額に有意な関係を見出し、イギリス王立協会が発行する学術論文誌に報告しました。太陽黒点数が減少すると気候が変化し、さらに、小麦の収穫量が変化して市場価額に影響を与えると結論しています。この研究は、太陽-気候-社会(人間生活)の結びつきを考察した初めての試みとされています。太陽活動の変動の特徴を正しく把握し、その気候変動や現代社会への影響を探ることは、今もなお学術的・社会的に重要な研究課題です。

太陽活動は約11年の周期で変動し、さらに数十年から数千年の時間スケールで変動することが知られています。人工衛星を使った観測から、約11年の周期変動と伴って太陽放射量が0.1%ほど変動することが知られています。理論計算によると、太陽放射量の0.1%の増加は全球平均気温を約0.05℃だけ上昇させることになります。海洋表層の海水温の観測データや過去の太陽活動指標と気候変動指標の関係を解析から、約11年の周期変動に伴い、気温が理論値のから推定される2倍ほどの振幅で変動することが明らかになっています。これを科学的に説明するには、今後の更なる研究が必要です。

太陽活動がほぼ停滞したかのように太陽黒点がほとんど観測されなかったマンダー極小期の時代(西暦1645~1715年の70年間)には、少なくとも大西洋及びヨーロッパと北アメリカなどの周辺地域で著しく寒冷化した証拠が多数確認されています。1780年冬季にはニューヨーク湾が結氷し、マンハッタンからスタッテンアイランドへ歩いて渡れ、アイスランドでは海氷が何マイルにもわたって島を取り囲み、長期間に渡って港湾が閉鎖したことで漁業や交易に打撃を与えたと記録されています。太陽活動の沈静化が寒冷化をもたらすと結論づけるのは時期尚早ですが、太陽活動が中~長期的な気候変動に影響を与えるとの考えは、多くの研究者に支持されています。ただ、その確固たる証拠を得るためには、これからも、定量的な気候変動復元、太陽活動の年々変化のデータを蓄積していくことが必要です。

14Cや10Beは宇宙線生成核種と呼ばれ、その生成率は太陽活動の影響を受ける宇宙線の強度の変化によって変化します。過去に数万年間に遡っての太陽活動の長期変動を調べるには、樹木年輪の14Cや極域氷床コアの10Beの分析が有効とされています。14Cや10Beの分析から、過去1万年間の完新世にマンダー極小期と類似した太陽活動の衰退エピソードが12回繰り返し引き起こされた可能性が指摘されています。宇宙線生成核種と古気候のデータを突き合わすことで、太陽活動によって駆動される長い時間スケールでの気候変動の理解は格段に促されると考えられます。

2017年3月7日から20日にかけて、太陽の黒点が1つも観測されていないという状況が発生しました。マウンダー極小期の時代には、黒点周期に対応する太陽磁場の周期は約14年だったと推定されています。2008年に始まった第24太陽活動周期の黒点周期は、約13年と長くなっており、マウンダー極小期の時代と似ています。これから太陽活動が停滞期に入るかもしれないとの指摘がなされ、近未来に地球規模で寒冷化が引き起きるかという仮説が論じられています。その真偽に対して意見を述べるにためには、太陽活動の気候への影響について多様な観点で検討していく必要があります。

この四半世紀、太陽活動の変動が気候や人間社会への影響を与えるメカニズムを検討するうえで有効な証拠が蓄積されてきました。名古屋大学宇宙地球環境研究所が進める融合プロジェクト「太陽活動の気候影響」は、太陽物理学、気象・気候学、環境学、古気候学、地球電磁気学、宇宙線物理学などの最新の知見を融合し、太陽活動の変動性を把握し、太陽によって駆動される地球システムの理解を促し、将来の地球環境の予測に貢献することを目標としています。

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