PIMS開発プロジェクトとは
陽イオン質量分析(PIMS:Positive Ion Mass Spectrometry)は、新たな14C分析技術です。PIMSでは、電子サイクロトロン共鳴イオン源(ECRIS)を用いて生成した正の炭素イオンを数十キロボルトで加速し、荷電変換セルで負の炭素イオンに変換して質量分析を行う方式で14Cを検出する方式が採用されています。
ECRISでは試料のCO2ガスを直接イオン化できるため、AMS法で必要となる固体炭素(グラファイト)の生成が必要なく、試料調整の時間を格段に短縮することができます。また、AMSで必要となる複雑な試料調整過程が必要となくなり、処理過程の潜在的な汚染の低減することができるメリットがあります。
一般的なAMS装置で採用されているCsスパッターイオン源でもCO2ガスをイオン化することが可能です。実際、いくつかの研究機関ではCO2ガスの14C測定が実施されています。ただし、十分な精度を得るだけの14Cを検出することは容易ではありません。ECRISは、Csスパッターイオン源と比較して格段にCO2ガスから効率的に大強度のイオンビームを発生でき、通常のAMS法の測定精度と同等の測定が可能とされています。
2020年に開始したプロジェクト「Positive Ion Mass Spectrometry (PIMS)による14C分析システムのプロットタイプの製作」では、PIMSによる14C分析の知見の蓄積を目指し、名古屋大学タンデトロン1号機(廃棄予定)の部品を有効活用し、小型ECRISを使ったPIMSによる14C分析システム開発を行うものです。なお、本研究は名古屋大学宇宙地球環境研究所I長リーダーシップ経費の支援を受けています。